
住宅宿泊事業法(民泊新法)が2017年6月9日、国会で可決・成立しました。ここ数年、賛否をめぐって議論されてきた民泊ですが、いよいよ合法化され本格的に盛り上がってきました。今回は民泊マーケットが、賃貸事業やわたしたちの生活にどのような影響を与えるのか考えてみましょう。
民泊の盛り上がり
長らく800万人程度で推移してきた訪日外国人観光客数ですが、2013年に1,000万人を突破すると、急激にその数を伸ばしています。2016年には政府の当初目標を上回る2,400万人を達成しました。これは数年前には考えられなかった数字です。
世界最大の民泊仲介サイトAirbnb(エア・ビーアンド・ビー)の日本法人が設立されたのが2014年5月です。訪日外国人の増加を目指す政府の「観光ビジョン実現ブログラム」を追い風に、順調に業績を伸ばしています。
Airbnbの2017年4月24日に公表した「日本における短期賃貸に関する活動レポート」によると、2016年の宿泊人数は370万人にも上り、前年比2.8倍という急成長です。標準的なホストの年間貸出回数は89泊で、平均宿泊日数は3.4泊、利益を4,061億円としています。
日本企業も続々と新規参入しています。2015年12月のアパマンショップネットワークを皮切りに、2016年には大京、大東建設不動産、ALSOKが参入しました。2017年6月には楽天とLIFULL(旧ネクスト)が合弁会社を設立し、バケーション目的の中年層に人気のHomeAwayとの事業提携も発表しています。
民泊の不都合な真実
成長する民泊ですが、課題も数多く指摘されています。
2017年3月、全旅連の招聘でフランスの業界団体を招き、「民泊の不都合な真実~世界最大の観光大国フランスで起こっていること~」と題した緊急フォーラムが開催されました。
年間約8,000万人のインバウンドを誇るフランスで、民泊が多くの脱税を生み、業界の雇用を奪い、普通にパリに住む権利を破壊したことが報告されたのです。アパートの所有者がより利益の上がる民泊事業に物件を回したため、家賃相場が急上昇しました。賃貸契約の約25%が契約更新されず、それまでの住人は大幅な値上げを受け入れるか、郊外への引っ越しを余儀なくされました。
民泊新法
制定された民泊新法の概要は、
・ 都道府県知事への届け出制
・ 年間提供日数の上限は180日
・ 条例によって地域の実情を反映する
・ 事業の適正な遂行のための各措置の義務化
(衛生・安全の確保、名簿の常備、周辺からの苦情対応、定期的な報告など)
・ 家主不在型の管理委託の義務化
となっています。
事業の適正な遂行のための各措置が盛り込まれたことにより、正常な業界育成を目指す内容になっています。問題はホストの多くが小規模な施設提供者のため、物件数が約5万件にも上り、どこまで実態を把握・統制できるかが不透明なことです。宿泊客へのマナー徹底は不十分であり、周辺住民への対応窓口を持っている業者はありません。業界自体が未成熟といえます。
住環境や賃貸業への影響
自分のアパートを闇雲に民泊にするのではなく、一般居住用と分離するなど、節度ある態度が求められます。利益追求だけではなく、近隣との調和のとれた賃貸業を目指す必要があります。
民泊新法を順守すれば、それに見合った体制も必要になり、運営コストが上昇するため、管理会社の淘汰が進むものと予想されます。業界が成熟するまでは、騒音やマナー問題など住環境への影響は避けられません。
住環境を破壊するものとして民泊を廃絶しようとする意見もありますが、安価で特徴のある宿泊施設にニーズがある以上、いたずらな反対は得策ではありません。少子化対策や経済活性化のため観光立国が避けられないとすれば、むしろ積極的に健全な成長を目指す方が賢明です。
仮に賃貸物件が民泊物件に転用になる事象が加速すれば、現在より供給数が少なくなり、賃貸の際の家賃が上昇することも考えられ、不動産投資にとっては追い風になるかもしれません。
各都道府県や管理会社の取り組みを応援しながら、見守りたいものです。
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