
アパートに入居者が入り、入金が記帳されると経営の実感が湧いてきます。給与以外の副収入が生まれたということです。ただ、利益が出てもそれがそのまま手元に残るわけではありません。今回は、アパート経営の事業収支と現金の動き(キャッシュフロー)についてみてみましょう。
事業収支
例えばあなたが、6,000万円(建物4,000万円、土地2,000万円)の物件を30年ローン(金利2%)で購入して、アパート経営を始めたとします。6部屋で、それぞれ6万円の家賃とすると、月36万円が家賃収入となり、年間では432万円となります。この総売上から、運営経費を払っていきます。
賃貸業の経費には委託管理費、修繕費、広告費、固定資産税などがあります。業界の標準的な経費率は15~20%程度といわれています。新築は修繕費がほとんどありませんので15%程度といえるでしょう。年間で約65万円と推定できます。これを収入から差し引くと367万円(償却前営業利益)になります。
その他の大きな費目としてローン返済、減価償却費があります。
ローン返済額(元利均等):利息115万円
(損金算入できるのは利息分のみ。元本返済151万円、元利合計266万円)(※)
減価償却費(木造22年償却):182万円
であるとすると、合計297万円が損金算入できる経費です。367万円から差し引くと、70万円の税前利益となり、これが所得税算出対象になります。仮に税率20%とすると、税額14万円、残る純利益が56万円です。これが、あなたのアパート経営の当期純利益というわけです。
(※)元利均等の場合、利息と元本返済金額は毎年異なります。ここでは2年目の数字を使用しています。ローン返済表で一度確認しておきましょう。
キャッシュフロー
わかりにくいのは、この純利益がイコール手元に残る現金(キャッシュフロー)ではないということです。原因は前述の減価償却費とローンの元本返済にあります。
減価償却費は魔法の経費ともいい、損金算入できますが現金の支出はありません。つまり現金は減っていないので、純利益に対してはプラスで計算します。
この逆になるのがローンの元本返済です。現金支出を伴いますが、会計上は現金残高と負債の減少として表され、前述の事業収支には関係していません。現金は減っていますので、実際には差し引く必要があります。
つまり、現金の動き(キャッシュフロー)は「純利益+減価償却費-ローン元本返済額」という計算になるのです。計算すると56万円+182万円-151万円=87万円となり、最終的には87万円があなたの手元に残ります。
このキャッシュフローの多寡を左右する減価償却費とローン元本返済は、販売価格の建物比率やローンの期間設定などによって異なります。しかも時系列でも変化していきます。どう変化していくかは事前に把握しておきましょう。
事業特性
賃貸収入の特性として、
1. 満室以上の売上増が困難
2. 収入は新築時が一番高く、老朽化と共に下がっていく
3. ある程度下がると、ほぼ下げ止まりし長く安定した収入をもたらす
ということがあります。
家賃以外の収入を作る方法として、駐車場、自動販売機、広告看板、太陽光などがあります。金額は限られますが、うまく経営に取り入れたいものです。
2. に着眼して売却(出口)という戦略を取るのか、3. に着眼して長く持ち続けるというメリットを活かすのか、賃貸収入の特性を理解し、あなたの資産形成のゴールを睨んだ戦略が必要です。
インカムゲインとキャピタルゲイン
投資のリターンには保有することで得られるインカムゲインと、売買差益によるキャピタルゲインの2種類があります。不動産投資では家賃収入がインカムゲインとなります。他の金融系投資と異なるのは、このインカムゲインは賃貸業というビジネスの結果ということです。このビジネスの巧拙がリターンを左右します。
「サラリーマン向け新築アパート投資法」はオーナーに負荷の少ない投資法ですが、この根本は忘れないようにしましょう。マーケットへの理解が成功への鍵といえます。
【もし大家になってみるなら?!】シリーズ
・もし大家になってみるなら?!アパート経営の契約から管理まで #1(物件決定編)
・もし大家になってみるなら?!アパート経営の契約から管理まで #2(契約編)
・もし大家になってみるなら?!アパート経営の契約から管理まで #3(審査編)
・もし大家になってみるなら?!アパート経営の契約から管理まで #4(建築編)
・もし大家になってみるなら?!アパート経営の契約から管理まで #5(入居者募集編)
・もし大家になってみるなら?!アパート経営の契約から管理まで #7(経費・節税編)
・もし大家になってみるなら?!アパート経営の契約から管理まで #8(管理編)
・もし大家になってみるなら?!アパート経営の契約から管理まで #9(総集編)